私の夜の大学 11

それでは、なぜ私が一般的に知られていない裏社会の話、しかも30年以上も昔の同和建設協会(同建協)にかかわる話を知っていたのか、その当時の私を少し説明したい。

 

 

昭和の終わりから平成ヒトケタにかけての大阪ミナミ日本橋1丁目交差点から千日前、黒門市場を抜け、電気街、そして、更に南へ下って通天閣、釜ヶ崎、飛田、最終はロータリーのある交差点・・もっとも現在はロータリーは取り壊されて、交差点名に「ロータリー跡」と書かれているがこの一帯、つまり堺筋の南端は私にとって<夜の大学>だった。

 

 

五木寛之風にいうと、その地帯は私にとってのメコン・デルタであり、私の大学でもあった・・と表現してもよいだろう。

もっとも五木寛之の場合は「私たち」と表現していたので、おそらく大学の学生仲間がいたのだろうが、私の場合は一人だった。

同年代の学生仲間はいなかったが、そのかわり大学の教授・先生にあたる人がそこには沢山いた。

 

 

それは千日前の夜の蝶だったり、地回りのおニイさん、商店の大将、博打場のシケ張り、みんな若かった私に実地で「人生とは何か」を教えてくれる教授・先生だった。

 

 

はじまりは、純真な心を持った中学生のとき、日本橋の電気街に行こうと思い、「日本橋の電気街」というからには、地下鉄の「日本橋」で降りたら良いのだろう、と考えたのが「間違い」の元だったのかも知れない。

 

 

電気街に行くにはその隣駅の「恵美須町」が最適だったのだが、私は何故か日本橋を降りて千日前に紛れ込んでしまったのである。

 

 

夜の不夜城「千日前」が純真な心を持ったラジオ少年(当時はオタクという言葉はまだなかった。かといってラジオ少年も死語だったが・・)を変えていくのは赤子の手をひねるようなものだった。

 

 

そして高校になると、少し堺筋を外れて松屋町筋のバイク街、大学になると通天閣からロータリーあたりを根城とした。

 

 

当時はバブル期で、今まで日雇いのアンコ相手に百円、千円単位で博打の相手をしていた地回りのおニイさん達が、「兄ちゃん、これからわしらの業界は不動産やで」と口々に言いだし、「ちょっと事務所来てみい」と呼ばれ、博打場のすぐ近くにあった事務所に行くと、ファックスでやり取りした紙を見せて、「これがウチに来るやろ、それを宛名だけ変えてちゃう所に送るねん。それだけで手数料600万円や」と説明してくれた。

 

「わしらの業界」とは例えアンコ相手のコシャ(小さい)博打をやっているといえども、ハッキリ言ってしまえばヤーさんである。

 

 

私はこのあたりの「おあニイさん」達から「おい、大学生」と、いつしか“しこ名”が「大学生」となって、結構可愛がられていて、的屋の店の手伝いや博打場の手伝いなどもするようになっていた。

 

 

今ならそんな事をいうと「えっ、そんなことしていたら反社じゃないですか!」と口角泡を飛ばして批判してくる人がいそうだが、当時、このあたりは一般住民とやくざ者は一体となっていた。

 

イメージとしては、じゃりんこチエという漫画で博打屋のおっさんとテツのやり取りが描かれているが、本当にそんな感じの日常で、正月には餅つきをやくざの事務所でやっていて、近所の住民に配ったりなどという光景が普通にやりとりされる地域でもあった。

当然、この界隈の業界のことも<X氏>の身内である同建協の<X建設>を含め、耳に入るようになっていった。

それが平成四年頃だっただろうか、暴力団対策法が出来てからを境に、少しづつ変わっていったと思う。ただし私自身このころには訳あって、この地を離れていった。

 

話は逸れたが、的屋の手伝いも博打場の手伝いもやってみるとアウトローな仕事とはいえ結構な「労働」だった。

それが、来たファックスを別の所へファックスするだけで数百万の手数料なんて「この人たちバチがあたるんとちゃうか」と思ったものである。

 

 

「お前、宅建取りに行けや。ワシらはあと何年か経たんとアカンねん」と言われた。確かに懲役から帰ってきてまだそんなに時間経っていないから、私にとりに行けということだな、と察した。

 

 

もともと、親戚のおっちゃんから真空管アンプを貰って、電気に興味をもったのがはじまりで電気街の日本橋に通うようになり、高校・大学の時は漠然と

「将来、電気屋かバイク屋になろう」
と思っていた私が、不動産屋になったきっかけはこういう不思議ないきさつからであった。

 

 

それが、不動産屋になり遊休土地の活用を考えるところから介護福祉事業になり、その中でも高齢者から障害福祉になった、という「風が吹けば桶屋が儲かる」ではないが、「真空管アンプを貰うと障害福祉事業を始める」という顛末になったのである。


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